King&Prince アリーナツアー”Made in”についての雑文−あるいは不完全な魔法について−

魔法が死んだ世界に生きている。

M・ウェーバーが唱えた脱魔術化は文字通り魔法を殺し、そこに近代のはじまりを示した。理不尽なほどに徹底された合理性至上主義の支配が、消失した非合理性という魔法を下敷きに今という現実を覆っている。

 資本主義の末期的症状に苛まれた今では、副作用のように生産性に対する強迫観念が、時間という見えない闇が私たちを駆り立てる。クレーの「新しい天使」に耽溺していたベンヤミンが嵐の向こうに見た世界が破滅的な世界がまさにここにはある。

 だからこそ、わたしたちは魔法を求めてしまう。この強迫的な世界からのエグザイルを可能にする、一瞬の魔法を。賢治が希求した「ほんとうの幸い」を求めるように、その魔法の灯火を原動力に動く列車に乗り込むことを。

Made inで演じられる列車はまさに不完全な魔法そのものだ。

不完全だからこそ、列車は決して終着点にたどり着くことはない。ならばこの列車はどこへ行ってしまうのか。それは、出発点だ。今という現実から出発した列車は円環的に再びここへ帰還する。(last trainの行先が「踊るように人生を」という現実をその足で刻むことを是とした楽曲であることがそれを強く示唆している)

魔法の不完全性によってこの列車は現実に引き戻される。現実から魔法の国へというエグザイルは不可能だ。不完全な魔法の力では、この強力な現実の引力からは逃れられない。しかし、この円環は決して絶望ではない。この列車はエンターテインメントという虚構/今という現実という二項対立的な(あるいは断絶をもった関係)を瓦解させ、それを円環的につなげているのだ。

つまり、この不完全な魔法によって魔法の国と現実という両者の存在的位置の距離は失効する。始発点である現実と虚構的な外部は魔法の列車によって円環的に結ばれ、同じ座標上で重なるのだ。そこに現れるのは破滅的な現実を覆い隠すベールとしての虚構だ。

今という剥き出しの現実はベールで覆われる。しかし、その凹凸は隠せない。そこにあるのは理想的なユートピアではない。それは完全で何処にもないどこかへのエグザイルの憧憬をもつだけの、不完全な理想郷だ。

この不完全な魔法による円環とそこに立ち現れる不完全な理想郷の風景の発露こそがこの二時間半の上演なのだ。

 不完全な魔法からなる歪み、そして完全なものに相対される綻びこそがMade inの最大の魅力である。Made inのコンセプトは「和」だ。

「和」その曖昧な響きは度々私たち観客を魅了してきた。その魅力は決して確固とした伝統に裏打ちされたものでも、日本的なものという純粋性にあるのでもない。むしろその存在論的な脆さ、異国文化との無限の交配によるその不可分なアイデンティティの複雑さにあるのだ。

 Made inはこの文脈において最も誠実に「和」と向き合っている。中盤のダンストラックでは「和」はHIPHOPに"賭けられて"いる。

そこでは和洋という対立的な図式は鳴りを潜め、その解釈によって洋は交配される。この自覚的に生み出された歪な和の表象がこのコンサート全体の空気を決定づけている。

中央に用意された舞台は、正円でなく歪な円だ。そこで繰り広げられるのは決して完全な円舞曲ではなく、むしろ情念が絡みついた乱舞曲だ。四季をイメージした楽曲群では、春夏秋冬という形式的な世界の法則は壊れてしまったかのように、冬と夏とを繰り返す。

時間という概念すらも歪んでしまったそこではI promiseで誓われた愛の力だけがその歪にねじれた時間軸を拙くも繋ぎ止めている。この壊れた時間軸は、このコンサートのセットリストにおける円環の構造を匂わせている。last trainは終わりの始まりにすらならない。私たちはセットリストを始まり(ichibanのMVでの秋めいた紅葉の空間に舞う桜吹雪がその狂った時間感覚を表現している)と終わり(実際にDream inはKing & Princeの活動における文言化されたコースマーカーとも言うべき役割を果たしている、いわばターミナル駅のような曲だ)で閉じられた一方公的な世界にいるのではなく、始まりと終わりを繰り返す円環の只中にいるのだ。

円環は繰り返す。不完全な魔法によって永久に繰り返される円環の中の奇跡のような一瞬(ここでは時限的な魔法の物語を下敷きに、愛によって今という一瞬が永遠へと超越されることを表したシンデレラガールが自然と思い返される)を私たちは欲望する。

魔法は完全ではない。しかし、だからこそ、淀みなく乱反射するダイヤモンドに焦がれながら、その歪さを残した不完全なままの彼らの世界を、私たちはどうしようもなく愛するのだ。

"恋の魔法には期限がある"
"時がたてば 宝石もガラス玉さ"
もしもそんな日が来たって
キミは朝の光にかざして
それを 耳元に飾るだろう